福島第一原発事故ーこのままだと健康被害も精神的被害も補償されない

原発の補償問題に関するニュースを見てみたんですが、このままだと健康被害も精神的被害も補償されない可能性が高いですね。意外に聞こえるかもしれませんが、これはJCO事故の時もまったく同じでした。僕はJCO事故被害者の会の事務局員としておよそ10年間被ばく事故の補償問題を見てきたわけですが、健康被害も精神的被害も補償されなかったこの事故の時とほぼ同じ展開になっています。


まず、現在出されている「精神的損害に対する幅広い補償」というニュースですが、これは避難させてしまったことに対する「迷惑料」としてJCO事故でも一番初めに払われたものです。確か避難所に一泊させた迷惑料とかで、一人一万五千円とかでした。これは事故によってPTSDうつ病などの重い精神疾患になってしまったというような「精神的被害」とはまったく別物です。


次に各産業の被害や風評被害が検討されます。これはまったく十分ではありませんでしたが、JCO事故でもある程度支払われました。現在政府関係者や識者が議論しているのはこの補償をどうするかという問題で、当然全額支払われるべきものですが、JCO事故の時はかなりの額が支払われず、農協などは訴訟を起こしています。


これが落ち着いたころ、多くの人たちは実質的な健康被害や精神的被害について検討します。


ところがもう先手が打ってあって、例えば精神的被害について海江田経産相は「相当因果関係があれば補償する」と言っていますが、原子力損害賠償法にのっとれば、これは被害者側が相当因果関係を証明しなければなりません。JCO事故でこれができた人は一人もいませんでした。なぜなら、どれだけ医師の診断書を持っていっても、JCOも裁判所も因果関係を認めないからです。従って健康被害も精神的被害も誰一人として補償されませんでした。つまり、「相当因果関係があれば補償する」というのは、実質的には「補償しません」と言っているのと同じなのです。


法律論ではそうなってしまうのですから、健康被害、精神的被害には政治的な救済が必要です。ところが国は健康被害を認めてしまうと、自分たちの避難指示の間違いなどを認めることになってしまい、責任を認めなければならなくなるので、やはりこうした被害を認めない側に回ってしまうのです。


JCO事故では、少なくともそうでした。現政権は、こうした事情を踏まえて、今回の原発事故による健康被害、精神的な被害についての政治的な救済をする必要があるのです。しかし残念ながら、こうした救済策が検討されている形跡はありません。ゆえに、冒頭に書いた結論に落ち着くのです。


だが、それでいいわけがないのです。