みなと店モンハン部の壊滅(5)―オタクとは何か・特別編

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「彼女を説得してきました」
ととびしんは言った。
瞬間、この男がなにを言っているのか、ビールでぽおっとしていたおれにはにわかに理解できなかった。
とびしんは、おれたちとモンハンをやるために、泣いてしまうぐらいとびしんと話をしていたい彼女を説得してきた、と言っているのであった。とびしんが闇に消えてから1時間以上たっていたが、その間とびしんは店の駐車場の車の中から電話をかけて、彼女を説得していたらしい。
「エライ」
とおれは言った。深夜のすき家で、おれたちは口を極めてとびしんを褒めたたえた。とびしんはちょっと得意そうな顔で3DSを取り出し、
「さて、どこに行きますか」
と言った。
部長が戻ってきた。
リベンジの時が来たのだ。
おれたちはまず、直前にやられたブラキディオスのところに行くことにした。どうせなら2匹クエに行くか、ということになった。「爆砕の連鎖」である。おれととびしんが何度となくクリアしたクエストだった。
とびしんが得意のハンマーでスタンを奪う。すかさずもふらせろ君が乱舞し、おれが竜撃砲をぶち込む。もふらせろ君が一度力尽きたが、おれたちはなんなく2匹のブラキディオスを倒し、リベンジを果たした。とびしんが加わったことによって役割分担がはっきりし、お互いの特徴が機能するようになったのだ。
なんだ、やればできるではないか。
そうだよ、おれたちだって、やればできるんだよ。ぐんぐんと希望がよみがえってきた。
そしていよいよグラン・ミラオスへ。
おれは自分の役割を頭の中ですばやくまとめた。
相棒は双剣とハンマーで、どちらもガードができない武器だから死にやすい。3死すれば失敗だから、おれの役割はまず死なないことである。
二人はガード能力がないぶん機動力が高く、ガンランスはその逆である。したがって部位破壊の主力は二人にゆだねる。機動力の低いおれの役割はミラオスの脚に張り付いてダメージを溜め、こいつを何度も横倒しにすることだ。倒れたらすかさず胸まで走っていき、胸の部位破壊をしてなんとしても「不死の心臓」を手に入れる。
クエが始まると、想像していたよりも作戦はうまく進行していった。
二人が順調に部位破壊を進めている間に、おれは脚に張り付いて「前方突き2回+叩きつけ+フルバースト」のコンボを叩き込みつづけた。ミラオスは何度となく倒れ、そこで胸まで走っていって竜撃砲をぶち込む。これが最高に気持ちがいい。胸の部位破壊に成功したときにはおもわず「やったー」と口走っていた。とびしんともふらせろ君が一度ずつ死に、その時はさすがに緊張感が走ったが、気付いてみると15分ほどでグラン・ミラオスは倒れていた。しかも全部位破壊というおまけつきであった。
「やっぱりモンハンは面白いなあ」
おれはしみじみとそう思った。
続けてミラオスヘ。またもや全部位破壊に成功する。しかも今度は誰も死ななかった。
新たにスーパードライを注文し、愛らしいすき家のマークのジョッキにすばやく注いで乾杯する。ミラオス2連戦で緊張していたせいだろう。うひゃひゃひゃひゃー、といううまさである。
このようにして2個の「不死の心臓」を手に入れたおれは、ようやく「熾烈ナル修羅ニ堕ツ鎗」という果てしなく中二病くさい名前のコワレガンランスを手にし、にんまりと笑ったのであった。
そんなわけで今回おれたちは、間一髪のところで壊滅の危機を回避した。しかし、この広い宇宙にはさまざまな危険が待ち構えている。われわれみなと店モンハン部には、部長とびしんが「彼女」という宇宙生物に侵略される今回のような危険が数限りなく待ち構えているのである。
宇宙生物「彼女」は手ごわく、とびしんは今後も侵略と戦うため死闘を繰り返していくことになるであろう。4年前「女子高生腐女子」という最凶の宇宙怪獣に完膚なきまでに叩きのめされたとびしんであったが、そんなわけであれから4年、T君こととびしん君は、少しずつ成熟しているようであった。
いやいや、ひとごとではないのだ。おれにだって、異次元生物「仕事」や、超重量怪獣「家庭」などとの熾烈な戦いが待っているのだ。そしてなんとしてでも、これらとの戦いを戦い抜いて生き抜いて「みなと店モンハン部」の明かりを灯しつづけていかなければならないのである。