避難者の41%がPTSDを抱えている恐れがある

5月27日にNHKEテレ・ハートネットTVで「避難者の41%がPTSDを抱えている恐れがある」という報道がありました。
これはこの冬に行われたNHK早稲田大学の16000人の避難者に対するアンケートの結果を分析したものです。
NHKの推定では、福島県の避難者は今年4月時点で11万5000人あまり。その4割以上というのだから、恐ろしい数です。しかし、僕は茨城県北部に住んでいますが、この周辺にも苦しんでいらっしゃる人はおられます。避難者に限定せず、さらに福島県外のことも考えると、福島原発事故関連のPTSD罹患者の数はますます膨大になるのではないでしょうか。
原発事故以降、母がJCO臨界事故でPTSDを罹患した経験から、僕はこれまでこのブログでも、またさまざまなメデイアを通して、原発事故のこころの被害について書いてきました。しかし僕が追いうるのはあくまで個別の事例だけですから、このようなマクロな視座からの発表はとても参考になりました。
特に興味深いのは、調査・分析に当たった早稲田大学准教授の辻内琢也氏のコメントにある次の3点でした。


1.「帰還困難区域に住んでいた方たちのストレスが高いというのはこれまでの調査でわかっていましたが、区域外避難、いわゆる「自主避難」をしている方たちも帰還困難区域の方たちに匹敵するほどの高いストレス状態にあるということが今回の調査でわかりました。これは非常に大きな発見で、絶対に対処しないといけない大きな課題が見えてしまったと言えるでしょう。」


2.「一般的なPTSDは、戦争や事故などといった一回性の激しいトラウマ体験が原因となる「急性単発型」と、虐待のように繰り返しトラウマ体験にさらされる「慢性反復型」に分けられるのですが、今回の福島の場合はそれらが組み合わさった型だというふうに私は仮説を立てています。」


3.「福島の問題はもはや過去の出来事のように風化にさらされていますが、この問題は全く終わっていません。だけど今、住宅の問題だったり、精神的な慰謝料だったり、賠償だったりが次々と打ち切られようとしています。これは本当に危機的な状況です。
現在、原発の再稼働が各地域で始まろうとしていますが、もし事故が起きたらきちんと対処しますよ、面倒を見ますよということをしっかり国民に伝えていかないと、再稼働に対する大きな不安は除けないと思うんですよね。せめて既に起きた事故に対してはきちんと補償することを示してほしい。」


それぞれ大きな論点ですが、僕が最も気にかかったのは3で、これから立ち直ろうとする最も重要な時期に、自主避難者に対する住宅の支援の打ち切りが検討されるなど、国の援助の手が引いていくということです。



僕自身の経験を思い返していくと、1999年9月の事故直後から母の調子が悪くなり、11月には内科に入院。翌2000年秋に精神科に入院。冬には父の体調も悪くなり入院。手伝っていた父の工場も二人が倒れてしまっては閉鎖せざるを得なくなり、2001年に廃業。そんなわけで、事故後3年ぐらいは次から次へと起こってくる事件に翻弄され、どうすればいいのかビジョンを描くこともままならなかったです。
個人的にも、ライターとして締め切りというハードルを飛び越えながら、親のケアや臨界事故被害者の会の事務局仕事がありました。2002年に父がJCOに対する損害賠償の訴訟を起こしてからはその資料を作る作業に追われ、事故後4年目というと精神的にも経済的にも非常にハードだったことを思い出します。
まあ僕のような事例は特殊ケースでしょうが、番組では、事故後放射線に対する意識の違いなどから離婚せざるを得なくなった女性が、母子家庭を切り盛りする中で経済的にも精神的にもたいへんな思いをしているケースが紹介されていました。アンケートでは、震災前より家族関係が悪化したという人は、29%に上ったということです。
これは本当に深刻な問題で、僕は何度も書いていますが、原子力事故による被害、すなわち「核という呪い」は、人と人との間を引き裂く、という性質を持っているのです。



このことに触発され、明日から、南相馬で行った取材の中で、お蔵入りになっていたものをこちらで紹介しようと思います。取材したのは2年前、2013年のことです。