水木先生の夢、死んだ息子の夢

ええと、去年の夏息子があまりに遠くの天国にいってしまいまして、その夢と、それと水木先生の夢を見たのでご報告します。共同通信に書いた原稿なのですが、いつどこでどういう形で出ているのか紙面を送ってもらっていないのでさっぱり分からないため、こっちに出しときます。



 昨年の夏、大学生だった一人息子が急病で死んだ。そして年末には、とても親しくしていただき、何度も国内や外国をともに旅をした、自分にとっては心のふるさとのような水木しげる先生に逝かれてしまった。なにか、まるで見えない巨大なハンマーに、思いっきりぶったたかれたようで、その反動なのか何なのか頭がボーっとしてしまい、まったく実感がない。
 ただ、この二人に関しては不思議な夢をいくつか見た。
 一つ目は息子が急死してから10日ほど過ぎた日のことで、息子が家のすぐ外に立って大声で(とても声の大きな男だった)スマホに向かって誰か友人らしき人間にしゃべっているのだが、それが「だからオレは言葉を失ったんだって」と怒鳴っているのだった。それを僕は夢の中で聞いていて「言葉を失った人間が電話でべらべらしゃべっているなんてことを相手が理解できるわけねえだろ」と叫ぼうとする、という夢だった。
息子は杉並の学生寮に下宿し、大学では落語研究会アナログゲーム研究会、マジック研究会という3つのサークルに入っていた。死んだのが夏休みのさなか、8月14日のことだったので、身内での葬儀などの件もあり、彼の大学の友人のことにまでは頭が回っていなかった。あまりにも急な死だったので、友人たちは誰一人息子の死を知らないのである。
この夢を見て、どうも息子は下宿やサークルの友人たちに伝えたいことがあるらしい、とにかく彼の死について少しでも早く連絡を取ったほうがいいようだ、ということになった。案の定、予定していた行事には参加しないわ、予定した日に下宿に戻らないわで、友人たちは相当困惑していたらしい。
この夢を見たとき、息子は死ぬ前も声が大きくやかましい男だったが、死んでからもやかましいのかと、思わず笑ってしまった。

 もう一つは最近見た初めての水木先生の夢。
 水木先生は湯船のようなものに浸かっていて、頭にタオルを巻いている。そのタオルで、頭に溜まった毒を吸い出しているのだという。たしかにタオルは青紫色の毒の色に染まっていた。水木先生のような人生でも、頭に毒が溜まるなんてこともあったんだなあ、と思い感慨にふけっていると、同時に水木先生は、自分の頭と同じくらいの大きさのおモチを幸せそうにほおばっているのだった。もはや医者の言うことなど気にすることなく、思う存分好きなものを食べているのだろう。そんなわけであの世でも、水木先生の胃袋は健在だった、というのが水木通信第一報である。どうぞ好きなだけ食べてください。もうコレステルオールも何も、心配することはありませんから。
 いずれにしても夢の話である。夢というこの不思議な現象について、今後も探求していきたいと思っている。