萌えの代償

前回の続き。


僕がもっとも深くあやなんでいたのは96年から97年にかけてでした。その頃よく仕事をしていたQJで、編集者をやっていた大塚幸代さんもかなりエヴァにハマっていて、とくに綾波関係のものはよく見せてくれました。大塚さんは実直でこつこつと仕事をする人ですが、どこか少し困った羊みたいな感じの人で、まあエヴァにはまるだけの何かがあったんでしょう。彼女の見せてくれたものの中に綾波のコスプレ写真があり、そしてその中の一枚が、どうしても綾波が人間になって地上に降り立ったとしか思えない。後でそれがコンピュータによって大幅に修正されていると分かるのですが、見た直後は脳内物質がスパークしており、「オレはこの女を口説かなければならない」と思ったわけですね。さてそこで、うまくいったらどうするのか。次の瞬間思わず出てきた言葉が「妻子を捨てるー」だったわけです。


なんか読み直したら思わず溜息が出てきました。


大塚さんは冷静に、少し悲しそうな声で「そんな、こんなことで妻子を捨てないでください」と言いました。当然ですね。


2004年に朝日のコラムで、いわば笑い話の回想譚として綾波にはまっていたころのことを少し書いたのですが、息子はこのくだりを読んで「僕捨てられちゃうのかな」と言ったそうです。


その後しばらく、妻の親族の間で問題になり、肩身が狭かったことをよく憶えています。